理想のトートバッグへの思い
弊社で参考出品として合同展示会でお見せしたバッグをベースに、生地の色とサイズ等を変更してMaduさまとのコラボ企画のバッグができあがりました。
そのベースとなった、このバッグの背景を5章に分けて書いてみます。
長年バッグ関係の仕事をし続けてきました。
主な内容は、デザイナーから依頼を受けたサンプルを作るという、少し特殊な仕事でした。また、お買い上げいただいたお客様の商品の修理や、自ら商品企画にも参加する事もありました。
何人ものデザイナーからさまざまなサンプル作製の依頼を受け、長年使われたバッグの修理をしていくうちに、MDに捉われず、もし自分で理想のバッグを企画するのなら、どんなバッグにするのか?どんな素材、どんな縫製にするのか?と日々考えるようになりました。
バッグは所詮モノを運ぶ道具、何時でも何処でも気軽に使え、荷物を無造作に入れられるような使い勝手を良くすることは当たり前です。
パーマネントな道具としてバッグを考えると、ファッション要素は自ずと少なくなっていきますが、素材に何らかのストーリーがあり、シンプルな縫製ながら拘りを感じさせる箇所も入れたい。そして無理なく買える値段という点も大きな要素として含めたいと考えました。
そもそも世の中にはそんなバッグがあるのでしょうか?
1番近いのはLLビーンのビーントートでしょう。手紐が少し幅広であったり、せめて内ポケットが1つぐらい欲しいかな?とは誰もが思うところでしょうが、多くのバッグデザイナーも理想的なバッグの1つに挙げる人は多いと思います。
そんなビーントートにリスペクトしつつ、自分のフィイルターを通して理想のバッグをカタチにしてみました。
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メインの素材は「丸進工業さんの9号帆布」に決めていました。
http://www.hanpu-ya.com
革やナイロンの選択肢もありましたが、シチュエーションを問わず気軽に使え、「素材そのものにストーリーがある」という点では倉敷の老舗帆布屋さんである、丸進工業さんの帆布以外には考えられませんでした。
前職で何年か前に工場見学をさせていただきました。自社で撚った糸が、轟音の響く中、古いシャトル織機によって帆布として織られるまでの迫力ある工程をを見学させていただくと、丸進工業さんの自社製品に対する真摯な姿勢にすっかり魅了されてしまいました。そして、いつしか自分のブランドでバッグを作る時があれば、必ずこの生地を使いたいと思い続けていました。
10号でも8号でもなく9号にしたのは、生地の目がとても綺麗であった事と、パラフィン加工された生地の表情と、バッグにした時のボリューム感のイメージが1番近かったからです。
最近は風合いのいいNCナイロン(ナイロンとコットンの混紡)も出てきましたが「生地の耳をどこかに使いたい」という考えからもナイロンという選択肢はなくなりました。
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仕立てについては、凝る所には手間をかけ、シンプルにするところは潔く簡潔にしました。
見付けに9号帆布の耳をそのまま使っていることは大きな特徴の1つです。ジーンズでは良く見られる手法ですが、生地の耳が真っ直ぐでなく裁断するのが難しいため、バッグの量産工場ではとても嫌がられます。しかし、ほつれ止めの縫製を省略できることや、何よりスッキリとした見た目を出すために生地の耳をそのまま使いました。
内ポケットの作りも潔さの1つです。
裏地のないバッグでは、一般的には「吊るしポケット」を見付に縫い付ける手法を採りいれます。しかし、これではせっかく耳を使った見付けが台無しになってしまいます。そこで、ポケットの生地を背胴に直接縫い付け、中央にステッチを入れ2分割にしました。このような仕立てだと下糸が背胴側に出てしまいタブーとされていますが、スッキリとしたポケットにするこため、敢えてこのような仕様にしました。
本体の縫製もできるだけ簡潔にしました。このバッグの縫製の全行程は、革のネームタグの縫製を含め、11行程しかありません。縫製箇所を少なくする事で、縫製ミスが出にくくなりますし糸始末も減ります。
本体口周りにステッチを入れないことも特徴の1つです。
一般的には見付けのバタつきを抑えるために、本体の口周りをぐるりと縫い留めますが、どうしてもバッグの見た目が平坦になってしまうので、縫い付けてありません。そのかわり、手紐を本体にリベット止めすることでバタつきを抑えました。
また、バインダー巻きの両端を見付けで隠してしまう仕立ても特徴の1つです。
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バッグの修理で1番多いのが手紐の修理です。
修理を少なくし、また修理する場合でもバッグ本体へのダメージが少なく簡単に修理出来るように、手紐の素材とその付け方に対しても熟考しました。その結果、伸びの少ない4mm厚のブライドルレザーを使い、本体にはリベットで固定する仕様にしました。
ブライドルレザーは馬具に使われる革として有名です。騎手が命を預ける馬具として使われる革には「強靭さ」というそれなりの理由があります。使い始めは固くて少々使いづらいかもしれませんが、馴染んでくなると唯一無二の独特な質感になり、4mm厚の1枚革の手紐がとても使い易いものとなります。
高価な革ですが、一般的なステアの革と比べても歩留まりが良く、丁寧に裁断すれば効率の良い革です。また、革の裏側も吟面(表面)と同じように使えるのも大きな特徴の1つです。
手紐は人が直接手で持つ部分なのでとても気を遣います。手断ちで裁断し、鉋(カンナ)をかけて面取りし、コバの染色と磨きなど、手間と時間を掛けました。
手紐のバッグ本体への取り付けは、縫い付けではなく、リベット留めにしました。
仕立ての工程上、見付けと本体を一緒に縫う事が難しいということもありますが、修理が簡単にでき、修理をした時にバッグ本体へのダメージが少ないう点で、縫い留めよりリベットで留めの方が良いと判断しました。
リベットが生地を切ってしまうのではないか?というリスクがありますが、適正に打たれていれば、生地面に下穴を開ける一般的なカシメよりはリベットの方がダメージは少ないと思われます。現にジーンズの補強ではリベット留めが一般的です。
近年、日本の鞣し屋さんが廃業するというお話をよく聞くようになりました。イギリスでも歴史のあるブライドルレザーの工場が閉鎖されたという話を聞きました。ますます貴重になる革ですが、この革の良さをぜひ体験していただきたいと思います。
一般的な渋鞣しの革とは別物であるブライドルレザーの手紐は、このバッグのアイコンになるでしょう。
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意識的にこれといったデザインはしていないつもりです。
仕様、機能を優先したことで自ずとデザインが生み出されたと言えるかもしれません。唯一内巻きバインダーの色を、一般的には内装と同色にするところを、オフホワイトに統一したのが意図したデザインかもしれません。バッグの中を見た時のアクセントになると思います。
サイズには悩まされました。
バッグのサイズは使う人の身長や何を入れるか等によって千差万別です。その中から最大公約数的なものを2つか3つ選ぶのはなかなか大変な作業になります。ヒットメーカーのデザイナーなら自分独自の黄金比を持っていると思いますが、あいにく自分には持ち得ません。
1番手っ取り早いのは「売れ筋の商品のサイズを参考にする」という身も蓋も無い手法がありますが、「自分が使う」という事を前提でタテ、ヨコ、大、小と何本か作ってみました。しかし、これでいいのか?バランスはどうなの?とサンプルを作っても踏ん切りがつきませんでした。
そんな時、Maduさまからコラボ企画のお話をいただきました。
ベースとなったオリジナルのサイズは タテ34cm ヨコ28cm マチ10cmでした。
素材はそのままで、生地と革、バー(リベットの表側の金具)の色と、女性が使うことを考え、縦横マチ幅のサイズを変更し、コラボ商品のサイズは タテ32cm ヨコ25cm マチ17cm となりました。
マチ幅が17cmと幅広なのは「OLさんはお弁当を横置きしたいから、、、」ということを聞き、なるほど!とヒザを叩きました。そして手紐は女性が手提げで持つことを考慮して少し短くし、リベットも大人し目のバーを使うことになりました。
9号パラフィントートバッグはMaduさまとのコラボ企画として販売していただけましたが、弊社オリジナルとしてユニセックステイストの遊び心を加え、販売を検討中です。(PERSIMMON、SYPRESSどちらかのブランドで予定しています)
バイオーダーにて弊社でストックしている「SCOVILL」のリベットやヴィンテージのワッペンを付けたいと考えています。
Maduさまとのコラボ共々、よろしくお願いいたします。